食料安全保障を支えるミミズ、アリ、微生物

今月、インド南部のハイデラバードで開催された国連生物多様性条約(CBD)の締約国会議に出席した生物多様性の専門家は、ミミズやアリは心を魅了するものではないかもしれないが、それらはコケ類や微生物と並んで食料安全保障になくてはならないものだと述べた。国際自然保護連合の事務総長、ジュリア・マートン・ルフェーブル氏はIPSに「ミミズ、アリ、コケ類、土壌微生物は食料生産の英雄的存在と言っていいでしょう。というのも、それらの種がいなければ、土壌の生物多様性は崩壊し、食料生産は停止してしまうからです」と語った。

マートン・ルフェーブル氏はさらに次のように述べた。「政治的な注目度や資金をめぐる競争が激化している今日、土壌劣化(防止)は後回しにされがちです。しかし、この問題は、今後数十年にわたる世界規模の食料生産と生物多様性にとって最も深刻な脅威のひとつで、約15億人の(貧困にあえぐ)人々に影響が及ぶかもしれないのです」

「土壌の生物多様性は私たちの生物多様性でもずば抜けて華やかなものではないかもしれませんが、それでもきわめて重要です」

国連環境計画(UNEP)はハイデラバードで発表された調査報告書「Avoiding Future Famines: Strengthening the Ecological Basis of Food Security through Sustainable Food Systems(将来における飢饉の回避:持続可能な食料システムを通して食料安全保障の生態学的基礎を強化する)」において、次のように記している。「生物多様性を含めて、食料生産を支える根底の生態学的基盤を保護することは、70億人、そして2050年までには90億人以上にのぼる人口に食料を供給するうえで最も重要である」

国際的に有名なインドの環境保護論者で活動家のヴァンダナ・シヴァ氏は次のように力説した。「土壌は現代の農業家が考えているような空っぽの容器ではありません。土地は生命を持つ有機体であり、そういうものとして大切に扱わなければなりません」

チャールズ・ダーウィンの言葉を引用して、シヴァ氏は、「ミミズはコンクリートを用いずにダムを作り、土壌中の空気量を30%増やし、保水力を40%高め、土壌の生命を伸ばせるのです」と言った。

シヴァ氏はIPSに次のように語った。「残念ながら、私たちは化学肥料に依存した集約型単一栽培のような役に立たないシステムを重んじる一方で、人間にすべてを与えてくれる土壌の保全にこそ価値や恩恵があるということを忘れ、穀物や薪から家畜飼料までを同時にもたらしてくれる自然農法を放棄しています」

シヴァ氏はインドの政策を激しく非難した。同氏いわく、その政策は「化学肥料に数十億ドルもの補助金を与え、飢餓と貧困の解決策は、現在、化学農法によって破壊が進んでいる生物多様性の増進にこそあるという事実を完全に無視しています」

国連砂漠化対処条約の事務局長、ルック・ニャカジャ氏はIPSに次のように語った。「土地の劣化は不適切な投資が行われていることが原因です。私たちは今、土地の見方を変えなければなりません」

10月8日から19日まで開催されたCBD締約国会議において、先進国は2015年までに資金拠出を2倍にして、2020年に向けて国際的に合意されている生物多様性の目標について、新興国の達成を支援することに合意した。各国政府はまた、生物多様性損失を抑制する活動を支援するために政府出資を増やすことに合意した。

会議においては、海洋および沿岸の生物多様性を保護するために投資を増強することが主に決定されたが、土壌や農業に関わる生物多様性を訴える人たちは、世界規模で食料安全保障が危機にあることを踏まえて、土地に対してさらに努力が必要だと述べている。

ニャカジャ氏は次のように語った。「この1世紀の間に多くの国で70~80%もの森林が耕地化のために伐採されました。今、私たちはこの傾向を覆し、土地を再び健全な状態に戻す方法で農業を再活性化することに確実に焦点を合わせなければなりません」

国連環境計画の事務局長、アヒム・シュタイナー氏は次のように述べた。「一見したところでは永遠に続きそうな食料生産の時代は、最大限の化学肥料や殺虫剤の投入を基盤としており、淡水や肥沃な耕作地の供給を崩壊させています。まだ実際に破綻は目に見えなくても、機械化による進歩は限界に達しつつあるのです」

シュタイナー氏はまたこのように語った。「世界が必要としているのは、正真正銘の緑の革命です。それは、森林、淡水、生物多様性によってもたらされる自然の投入物によるものであり、実際にどのように食物が育まれ、作られるかをより良く理解しているものです」

専門家によると、遺伝子、種、生態系のレベルにおける動物、植物、微生物の多様性は生態系の主要な機能を維持するのに必要である。たとえば、土壌中の多様な有機体は幅広く、植物や木々の根と相互に作用し、栄養の循環を確実にする。

UNEPの主任科学者、ジョセフ・アルカモ氏は次のように述べた。「食料安全保障の議論においては、環境問題はどちらかといえば後から考えられたことでした。今になってようやく科学界は全体像を掲げ、食料システムの生態学的基盤が不安定なだけではなく、実際にどれほど損なわれているかを示しています」

マートン・ルフェーブル氏は語る。「目下、2000万トンの穀物の収穫が望めた1200万ヘクタールの土地が年々消失しています。今日の人間は、地球上の3つの重要な境界をすべて超えてしまっています。その3つとは、生物多様性の損失、気候変動、それに、かつては肥沃だった地域に不毛な地帯を作り出す原因となった、地球規模での窒素とリンの流出です。これらが土地利用の慣習にすべて結びついているのは偶然ではありません」

ニャカジャ氏は言う。「土地の劣化のない世界を築く努力はパラダイムシフトを要します。新たな土地の劣化は避けなければなりません。しかし、避けられない場合は、最低でも同じ面積で、理想を言えば、同じランドスケープ、同じコミュニティ、同じ生態系において、劣化した土地を再生することによって、埋め合わせをすることが必要です」

そしてニャカジャ氏はこのように続けた。「資金源を動員および活用するにあたって重要になるのは、先進国の資金の獲得そのものより、私たちが学習することかもしれません。政策や習慣を通して、土壌を商品化せず、また近道をして自然から利益を得ようとすることなく、その自然資源に責任を持つことを学ぶ必要があります。どのような形であっても、支援が得られる場合は、新興国は約束を実行しなければなりません」

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本記事は2012年10月23日にInter Press Service News Agencyにより発表されたものです。

翻訳:ユニカルインターナショナル

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著者

マニパドマ・ジェナ氏は、インド東部のブヴァネーシュヴァルを拠点とする開発ジャーナリストでコミュニケーション・コンサルタントである。環境、気候変動、生物多様性、先住民族、MDGのテーマを幅広く専門にしている。